Tomonarism
<第13話>
「俺の髪型」

みなさんの髪型は格好良いですか?僕はあんまり格好良くありません。
今日は髪型の話を。

今でこそ小学生のくせにオサレ(お洒落)な髪型をしている子供が多いですが
僕が小学生の時にはそんな奴は居ませんでした。
いてもせいぜい「年がら年中ランニングシャツ(タンクトップ)」みたいな
俺は俺が格好良いと思う事をする
といった昔ながらの男の美学を大切にするような奴ばかりでした。
僕も例外ではなく(タンクトップでは無かったが)

髪型?寝ぐせ任せ風任せだネ

と、「美容室俺の母ちゃん」が切ってくれた髪の毛に対する適切な髪型のポリシーを貫き通していました。
「俺には野球とサッカー、それにカブトムシがあれば良いんだ」
という大きい病気には絶対かかりそうにない少年だったのです。

しかし時は流れ、中学生にもなると周りにちらほらと
髪を真ん中で分ける奴

髪をツンツン立てる奴
など

いつかテレビで見た事ある髪型

をしてる奴が増え始めたのです。
ちなみに僕はその時つくしんぼみたいな髪型でした。
そして決まってバレンタインデーになると、そういったテレビの人っぽい髪型をしている奴がチョコを貰いまくり、僕らみたいな
「野球とサッカーカブトムシ連合」
は全くと言っていいほど貰えませんでした。

そしてそいつらは学校にムース(ギャッツビー)を持ち込み、手を洗う事と雑巾を絞る事しか使い道がないと思っていた教室の洗面台の前で
もの凄い勢いで髪の毛を分けたりして僕ら
「野球サッカブト」
の神経を逆なでしたりしていたのです。
何か無性に悔しくなった僕は生まれて初めて髪型をいじる事を決心し、鏡の前を占拠する格好いい人達に向かって

その鏡 明日は俺が シンデレラ

と常軌を逸した俳句もどきを投げかけたりして学校をあとにしました。

家に着き、早速鏡に前に立った僕は
美容室俺の母ちゃん
でいつも切っている髪型を眺め

こうなったらチェッカーズだ!

と、なにがどうなったらチェッカーズなのかも分からないままムースを探しました。
しかしムースはどこを探してもない、というのもうちは母ちゃんと姉ちゃんぐらいしか整髪料を使わないので
ギャッツビー
は無かったのです。

仕方ないので別の整髪料を探しても
姉ちゃんが聖子ちゃんカットにするためのケープ(多分緑のやつ)
とクシの付いてるドライヤーぐらいしか髪をいじる器具が無く僕は途方に暮れました。

これじゃ…チェッカーズになれない…ギャッツビーが無いとダメだ!

と多分チェッカーズはギャッツビーを使ってなかったと思うけど僕は途方に暮れたのです。
今考えればケープで全然問題なかったんですけどね。
僕はどうやったらチェッカーズになれるのか思案を巡らしました。
ムースもなく、どうしたらチェッカーズになれるのか
出来ればチェッカーズの中でもフミヤになれるのか
僕の中で二つの条件が浮かび上がりました。

1.ある程度髪が長くなくてはいけない事
2.前髪が、真ん中だけピローンと長い事

僕の髪の毛はある程度長い、一つ目の条件はクリアーしている。
問題は二つ目だ。前髪だ。

僕はその時閃きました。もの凄い事を閃いたのです
ムースいらずでチェッカーズ(フミヤ)になれる方法を閃いてしまったのです。
これだ!と僕は勢いよくハサミを手に取り、前髪をジョキジョキと切り始めたのです。

そう
真ん中だけを残してあとは短く

完成です。ムースいらずの半永久的チェッカーズの完成です。

ムース?いらないよ俺は。
だって最初からこの髪型だもん

手間もかからず誰でもフミヤ。何で誰もこのことに気づかなかったのか

整髪料業界、ダメージだネ

とすっかりご満悦になった僕は母ちゃんの帰りを待ちました。
母ちゃんはすっかりフミヤになった僕を見て何て言うだろうか
ワクワクしている僕の所に母ちゃんが帰ってきました。
僕は

全然意識してないけどあれ?俺の事フミヤに見えちゃう?

的なさりげない笑顔でおかえり!と告げました。
母ちゃんはそんな僕を見て一言

え?タコ八郎?

と言いました。

僕は母ちゃんに「洗面台が毛だらけだ!」とキレられながら初めて知りました。
ムースでいじるのが
「髪型」
切っちゃったら
「髪の形」
になっちゃうって事を。

その後、プラーンと垂れてる前髪を切った僕はお土産屋とかによく置いてある
可愛らしい感じのお地蔵さん
みたいになって軽い登校拒否を起こしながらも学校に通いました。

そして鏡に前に立ってる格好いい人達に向かって心の中でこう呟いたのです。
前髪は、特に大切に扱えよってさ