Tomonarism
<第6話>
「俺の長い夢」

皆さんは不思議な体験をしたことがありますか?
僕はあります。
今回はその時の話を。

不思議な体験と言ってもお化けを見たとかそういうことではなくて
何とも説明しにくいのですが幼少の時にこんな事がありました。
姉ちゃんと母ちゃんがテレビを見ています。
水戸黄門でした。
はっきり覚えています。
テレビを見ている二人を尻目に、
僕はキッチンのテーブルの上に寝転がり、ただボンヤリしていました。
意味はなくただボンヤリしていたのです。
僕は体を起こし、視線を前に向けます。
そこには暗い廊下があるだけです。
そんなにでかくない家ですが、
僕は小さかったので廊下は限りなく続いているように感じられました。
何か嫌な予感がして横に目をやると二人がテレビを見ています。
安心して再び廊下の方に目をやると何かが居ます。
何だ?
誰かがそこにいるのです。
え?と思って良く見てみるとピエロのような格好をした男が立っていました。
そいつはどんどん近づいてきます。
僕は逃げようとしました。
しかしピエロは僕の足を掴み、
僕をテーブルから引き吊りおろします。
僕は必死にテーブルの足に捕まり、泣きながら母ちゃんと姉ちゃんに助けを求めます。

助けて!連れてかれちゃうよ!

しかし二人はこちらを見ようともしません。
聞こえていないのです。
ピエロは僕を引っ張り続け、僕の手はテーブルの足から離れました。
そしてそのままズルズルと引きずられていきます。
僕は泣きながら助けを求め続けました。
しかし二人に気づかれないまま僕はピエロに
廊下の奥の部屋まで引きずられていったのです。
そしてそこに閉じこめられ、
僕とピエロは二人っきりになりました。
そして…気づいたら朝でした。
母ちゃんに起こされました。
夢だったのか…いや、そんな訳がない。
いや、でも…
僕は混乱しました。
僕は母ちゃんに尋ねました、
何で昨日は助けてくれなかったのって。
そうしたら母ちゃん、

何を言ってるのこの子は。

…夢だったのか。
しかしそれから僕はマクドナルドのキャラクター、ドナルドマクドナルドを直視出来なくなりました。
その風貌が、僕を連れ去ったピエロに酷似していたからです。
それから僕は千葉県に引っ越すことになりました。
これでやっとアイツから逃れられる。
そう思っていました。

…でも悪夢は続いたのです。
ピエロのことを忘れかけていた頃、小学校2年生くらいですか。
いつもの様に眠りについた僕は夢を見ました。
あれ?ここは…
そうです。
町田に住んでいたときの家に僕はいるのです。
そして…奴が現れました。
気持ちが悪くなるような笑みを浮かべて奴は再び現れました。
そして逃げようとする僕の足を掴み、また引きずっていきます。
部屋に閉じこめられた僕に奴が言いました。

逃げられないぞって。

僕は文字通りガバッっと起きました。
よくドラマとかであるあれです。
そして、来た…、と呟きました。
やっぱり来た。
そう思いました。
それから奴は毎月一回、夢に出てくるようになりました。
僕は夜が恐くて、夢を見るのが恐くて、どうしようもありませんでした。
それは何と、中学校3年生まで続いたのです。

このままじゃいけない、そう考えた僕はある方法を思いつきました。
あれは夢だ。
夢ならば自分で操ればいい。
僕はアイツが夢に出てくるのを待ちました。

そして…奴が来ました。
僕は奴に引っ張られながらも、
よし、やってやる。そう思っていました。
部屋に閉じこめられ奴と二人きりになると、僕は奴にこう言いました。

遊ぼうぜ。

ピエロは、え?と言う顔をしました。

これは夢だ、自分で操れるんだ。

場面は空き地に変わっていました。
その空き地は大小様々な形の石が転がっており、
空き地のすぐ横には家が一軒建っていました。
僕は手頃な石を掴み、あっけにとられているピエロに微笑みかけこう言いました。

ホラ、遊ぼうぜ。

そして僕は石を家のガラスめがけて投げつけます。
けたたましい音と共にガラスが砕け散ります。
僕はすぐさま次の石を手に取り更に投げつけました。
ピエロも僕に続きます。
僕らは楽しくガラスを割り続けました。
しばらくして家の主と思われる親父が出てきました。
僕らは笑いながら必死に逃げます。
親父から逃げ切り、僕らは肩を抱き合って笑い転げました。
そしてピエロがこう言ったのです。

もう、いいや。

そこで夢は覚めました。
それから二度とあの夢を見ることはなくなりました。
あれはいったい何だったのか…
いまだに不思議ですが一つだけハッキリしていることは
ドナルドマクドナルドは顔が恐いということ。
それは事実だと思います。

もし…
もしこれから夢の中で奴に会ったら僕はこう言ってやろうかと思っています。
よう、元気だったかってさ。