Tomonarism
<第3話>
「俺のアイランド」

皆さんは海外旅行に行ったことがありますか?
僕はあります。
今回はその時のことを書きます。

バイト先の研修旅行(まあ、慰安旅行みたいなものですな)で
僕はタイに行けることになりまして、(勿論無料)
初めての海外旅行だったもんですから
僕はかなりウキウキしてたんです。
しかし、一抹の不安もありました。
タイって怖いんじゃないの?と。
不安を抱えたまま現地に着いた僕は安心しました。
何だ、そんなに怖くないや。
タイ人たちは僕らを暖かく迎えてくれました。
僕が笑顔でないときは寝ているとき、そのぐらい楽しかったのです。

…そう、あの時までは。

タイに着いて何日目かに、僕らは小さな島に行きました。
そこはまさに別世界…果てしなく広がる青い海と空。
風は心地よく、現地のおばちゃん達がせわしなくキーホルダーを売り歩いています。
ビーチで横になり、夢心地になっている僕に一人の男が声をかけてきました。

ねえ、島一周しない?

その男は僕にジェットスキー(バイク)に乗らないかと言ってきたのです。
こいつで島一周しないかと。
島一周1000円。
高いのか安いのか分からなかったけど乗ることにしました。
だって滅多に乗れないでしょ?

ハヤイヨー、スピード。

倒置法で男が僕をけしかけます。

OK、OK。

僕はOKと言いながら何故かピースサインで男に答えます。
そしてバイクに跨り、後ろで別のバイクに乗り込もうとしているバイト先の先輩を待っていました。
胸が高鳴る。
抑えきれないよ。
すると男が「ゴーゴー!」と僕をせかします。
僕の腰に腕を回しながら。
お前も乗るの!?
現地の親父とタンデムです。
おまえとララバイです。
え?と不思議がる僕を横目にゴーゴー言い続ける親父。
しかたなく先輩を待たずに出発です。
親父と二人で。
波を蹴り、僕のバイクは海の上をとばしていきます。
爽快だ!
こいつがいなけりゃ。

ヒャッホー!

親父が叫びます。
何でお前が叫ぶんだ!

トバセ!トバセ!

俺としてはゆっくり島を回りたいのに親父が必要以上にせかします。
岸から大分離れ、海の真ん中に来たときです。
親父が言いました。

トメテ

止めるの?
何で?
不思議がる僕に親父が低い声で言いました。

海に入って。

…殺される!

僕はそう直感しました。

こいつは俺を殺すつもりなんだと。

海に入って親父がさらに低い声でぼくに言います。
助けを呼ぼうにもここは海の真ん中だ。
僕は観念して海にチャポンと入りました。
すると親父がバイクのメットインになっているところから
水中メガネとシュノーケルを取り出し僕の方に投げます。

何だ?

着けて

着けるの?これを?
…逆らうな俺。
ここは従順にだぞ。
装着した俺は次の指示を待ちます。
すると親父が言いました。

海の中見て

僕はプカプカ浮かびます。
下を見ると岩があってウニがいっぱい…それだけだ

ウニが居るでしょ

…いるよ。…だから?

見てよ、ウニ。

わからん!
こいつは俺をどうしたいんだ!
俺は静かにパニックに陥りました。
プカプカ浮かびながら、背中に常に恐怖を感じながらウニを凝視する僕。
すると先輩がやって来てやっぱりプカプカ浮かばされています。
水中で目を合わせる僕ら。
僕たちこれからどうなるの?
プカプカしながら泣きそうです。
すると親父が「上がって」と言いました。

さあ、戻ろう!

親父が叫びます。
僕は訳が分からないままフルスロットルです。

トバセ!トバセ!

ああ、飛ばすとも!
島について一安心。
一体あれは何だったんだ…
とりあえずお会計を済ませようと僕は親父に1000円を渡しました。
すると親父がこれじゃ足りないよ、と言いました。

2500円だよ。

おいおい、話が違うじゃねえか。
お前さっき1000円って…

ウニ見たでしょ。

見たよ。え?
だから?
だから2500円?
ウニで1500円取られちゃうの?
無理矢理見せられて?

払ったよ俺。
先輩も払ってた。

もう一周する?と言う親父を横目で見ながら俺は思った。
タイ人め、やるときゃやるねってさ。