Tomonarism
<第2話>
「俺の寿司」

皆さんはいままでにどんなバイトをしましたか?
僕は様々なバイトをしましたが、今回は回転寿司屋でバイトをしたときの話を書きます。
友達がもともとそこでバイトをしていたので、紹介という形で入りました。
僕は人見知りをする方なので初日はとても緊張しました。
顔も自然にこわばります。怒ってるみたいになります。
これはいかん、これはいかんと思ってもどんどんつまらなそうな顔になっていきます。
機械がシャリを握り、僕はそこにネタをのせていく。
そんな単純な作業の繰り返しです。
つまらなそうな顔をしながら単純な作業をする。
他人が見ればまず間違いなく怒っている様に見えたでしょう。
誰とも喋ることもなくその日は終わりました。

うん、悪くない。

自分ではそう思っていました。
次の日です、意気揚々とバイト先に到着した僕に、店長がおいでおいでします。

「なんですか?」

高校生らしいさわやかな笑顔で近づいた僕に店長が言いました。

「桜井君、評判悪いよ」

は?何だよそれ、どういう事?
昨日の今日で?
誰とも喋ってないのに?
文句の一つも言ってないのに?
僕はとまどいながら、え?と言いました。

え?どういうことですか?

「みんなに嫌われちゃったみたいだね」

何でだよ!
一日で?
俺何もしてないのに?
何処を見て嫌いになっちゃったの?
俺、お前よりはきっといい奴だぞ?
その日俺は複雑な気持ちで単純作業をしていた。
複雑な気持ちを抱きながら。

そんな俺に店長が言った。

「桜井君、前出て握ってみて」

つまりこういう事だ。
カウンターに出てお客さんが注文をした物を握ってくれと。

俺二日目よ?
大丈夫?

おそるおそる前へ出た僕に何も知らない客が言いました。

俺タコね。

タコ?
握るの?
俺が?
高校生が?
バイト2日目が?
ちらっと奧を見ると店長とバイトの奴らがこっちを見て笑ってやがります。

はめられた。
…僕の中で何かが弾けて飛びました。

「タコ一丁!」

俺は叫んだ。
おもむろにシャリを掴むと力の限り握りまくりました。
死ね、死ね、そんな感じで握りたおしました。
ほぼ固形になったシャリにわさびを塗りたくり、
タコをのせて出来上がり。

タコ一丁おまちどおさま!

笑顔で俺は寿司を差しだしたのです。
客が当然言いました。

「なんだよコレ」

青くなった店長の顔を見ながら俺は言いました。

気にいらねえなら帰ってくれ!

…気持ちは江戸前。
頑固親父の名文句。
当然客は帰りました。
俺もついでに帰りました。

…店を出るときに、クルクル回る看板を見上げながら俺は思った。
今の俺は負け犬かもしれない、
だけど次この店に来るときはお客様なんだ。
それまで勝負はお預けだってね。